tekiryuの日記

鍵村葉月から見る発達障害

アニメキャラクターの発達障害「傾向」

NHKで特集が組まれたり、関連する書籍が多く出版されるなど社会的な関心が高まっている発達障害ですが、アニメのキャラクターの中にもそれらしい傾向を持つ人物がいます。

2018年冬アニメにも発達障害の可能性が高そうなヒロインが現れました。それが『メルヘン・メドヘン』の主人公、鍵村葉月です。

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メルヘン・メドヘン1話

この記事では、はじめに発達障害っぽさのあるキャラクターの先例を挙げ、次いで、鍵村葉月の行動を見ながら、彼女の持つ発達障害傾向について考察していきます。

発達障害は大きく分けて3つのカテゴリーに分類されますが、そのなかの1つであるADHD(注意欠陥・多動性障害)は、衝動性の高さという特徴を持つ場合があります。ロボット物の主人公を思い浮かべてみると、彼らは自分の思いつきを抑えられず、たびたび作戦や命令に背きますが、これは「衝動性の傾向が高い」と見ることも出来ます。

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国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター 「発達障害とは」より引用

また、『NEW GAME!』のねねっちこと桜ねねも社内の冷蔵庫にあった誰のものかわからないプリンを食べる、部署が違う青葉に勝手に会いに行くといった衝動性、体を引っ掛けてPCのコードを抜くといった不注意からブログや2ちゃんねるではADHDを疑われていました。

        

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NEW GAME8話

もちろん、こうした傾向が見られるだけで、発達障害と診断されるわけではありません。診断には個々の障害傾向も重要ですが、何よりも当事者がその傾向でどれだけ困っているかというのが大切な指標になります。

鍵村葉月の学校生活

さて、放映が始まった『メルヘン・メドヘン』ですが、序盤から、可愛らしい見た目に反して鍵村葉月の学校生活はかなりのぼっち生活ハードモードであることが明らかになります。

そして、彼女の前に現れる日常生活上の困難は、PDD(広汎性発達障害)とADHDによるものだと考えられます*1。 以下に、その根拠を述べていきます。

1.友達がいない

鍵村葉月には友達がいない。少ないとか、極僅かしかいないとか、微妙な関係の相手はいるがそれを友達と呼んで良いのか分からないとか、そんな生易しいレベルではなく(中略)本当に完膚なきまでに、ただの一人も友だちがいない。*2

ひたぎクラブ」の阿良々木くん以下です。鍵村葉月は、高校に友人が一人もいないことを自らモノローグで丁寧に説明してくれます。 PDDの特徴の1つとして「空気が読めない」「共感性の乏しさ」といった社会性の障害が挙げられますが、他者の感情の機微を捉えられないことが、彼女が高校生活で友人関係を築けていない理由として考えられます。

2.コミュニケーションが上手に取れない

教師に叱られて職員室を後にしたところで、鍵村葉月は同級生三人から、「あんたまた呼び出されたの?」とからかわれます。 十分なコミュニケーション能力を有していれば、冗談でも言って切り抜けるところですが、彼女にはそんな器用なことは出来ません。 迷惑を掛けた訳でもない相手に、冷や汗をかきながら「ごめんなさい」と何度も謝り、その場に堪えきれず逃げ出してしまいます。 PDDは、相手の表情や仕草から相手の感情を上手に察することが出来ないため、しばしば会話が紋切り型のセリフになってしまったり、求められている回答とはズレた返事をしてしまいます。

3.不注意傾向

教室で頬杖を付きなら、友達がいないというモノローグをしている最中、教師から指名された鍵村葉月は指示を聞き逃してクラスメイトの注目を集めてしまいます。

  また、職員室に呼び出され、授業に集中出来ていないことを教師から重ねて指摘されます。 ADHDの特徴に興味のないものに注意を集中することが困難な不注意傾向があり、今回の失敗はこれに該当します。

4.物語への没入傾向

発達障害者にまれに見られる特徴として、アニメ、漫画などの架空の物語への没頭があります。

私には悪い癖がある。嫌な事や辛い事があると、私は本の物語の世界に逃げ込む。*3

おそらく、充実した人間関係を築きたいという欲求を持つものの、現実での人間関係ではそれを実現できないために、傷つくことのない、より安全で安心な物語の世界でその欲求を解消していると思われます。

魔法の世界ー環境を変えるー

1話の後半で鍵村葉月は、あるきっかけで右も左もわからない魔法の世界へ飛び込みます。 そこでは、温泉に入ったり、全裸(本あり)で武器を持った赤髪少女に追い回さるなど学校生活にも増して大変な状況に陥りますが、最後にはなぞの少女に介抱され、魔法の世界の学園長から期待される場面があります。

どんな人には向き不向きがあります。ある場所では普通の能力しか発揮できなかった人物が環境が変わることで非常に優秀な人物になることは珍しいことではありません。 発達障害者は、向き不向きの差が非常に激しいため、置かれた環境によって定型発達者(健常者)以上に疎まれることもあれば、大きな戦力になることもあります。 1話の時点では、規律が重んじられる現実世界の学校生活に鍵村葉月はうまく溶け込めていませんでした。しかし、環境ががらりとわかる魔法の世界では、秘めた能力を発揮して大活躍してくれるはずです。

鍵村葉月って『装神少女まとい』のゆまちんに似てますよね。

*1:DSM-ⅣまではPDDとADHDは併存しないとされていました。が、DSM-5になりPDDはASD( 自閉症スペクトラム)として概念が再構成されADHDとの併存が認められました

*2:メルヘン・メドヘン1話

*3:メルヘン・メドヘン1話