アナログハックを心理学的に考えてみる
アナログハックとは
アナログハックは、『BEATLESS』に登場する造語です。作品の公式設定サイトともいえるAnaloghack Open Resouceでは次のように説明されています。
アナログハックとは、「人間のかたちをしたもの」に人間がさまざまな感情を持ってしまう性質を利用して、人間の意識に直接ハッキング(解析・改変)を仕掛けることです。*1
アナログハックは、簡単にいうと、人間の形をした物体や絵などに心を動かされてしまうことという意味になります。
例えば、
他にも、工事中の看板にただ「ご迷惑をお掛けしています」と書かれるよりも、一緒に頭を下げる作業員の絵がある方が、工事者が申し訳なく思っていると感じるものなどがあります。 アナログハックという言葉はフィクションの造語でも、そのような現象があることは、経験的に理解しやすいものです。
心の理論
アナログハックの肝ともいえる「人間がさまざまな感情を持ってしまう性質」とは如何なるものでしょうか。この現象が我々生きる人間で起こる以上、その仕組みは説明できるはずです。
アナログハックの仕組みとして候補に挙げられるのが、「心の理論」と呼ばれる心理的なモジュールです。
心の理論とは、他者の心を類推し、理解する能力である。*2
専門家が編集する脳科学辞典の定義が予想外にシンプルだったので、心の理論の発達を測るのに使用される誤信念課題*3の1つであるサリー・アン課題を例に説明します。
次の画像をご覧ください。
サリーはどこを見るでしょうか? 正常な子供であっても3-4歳児は、間違った回答をしてしまいます。第三者である自分の視点で問題を考えてしまい、サリーの視点で考えることが行えないからです。心の理論とは、サリー・アン課題では、サリーの視点から考える、つまり、自分ではない他者にも心があり、他者の得た情報を推測、その心の動きを理解する能力です。
心の理論は、人間が人間に対して使うだけではありません。動物などに対しても適用されているのは、ペットを飼っていない人であっても想像に難くないはずです。テレビの動物番組で動物の気持ちのナレーションなどもその一例です。
3.アナログハックの仕組み
ところで、私たちが他者の心を想像するとき、相手の心の動きを一々考えるでしょうか。誤信念課題をさせられた時や他者が自分の意図しない行動をとった時には、頭を使い分析的に相手の心の動きを検討するでしょう。しかし、他者の心を考える際でも一々考えない場合もあります。同情や共感といった感情=相手の心の推測は無意識的自動的に行われるものです。
心の理論の観点からアナログハックの仕組みを考えてみます。「人の意識をハッキングする」ためには、1.人間の心の理論にとって判断を下しやすいシグナル(動作や表情)を発する必要があります。そして、2.その判断に基づいた特定の行動を誘発させることがアナログハックであると説明できます。例えば、Baidu IMEであれば、1.悲しげな表情のキャラクターによって、ユーザーに悲しんでいる/申し訳なく思っているといった判断をさせ、2.アンインストールを中止させるという行動を引き出そうとしていると見ることができます。
*1:Analoghack Open Resoucehttps アナログハック https://www63.atwiki.jp/analoghack/pages/8.html
*2:脳科学辞典 心の理論 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%BF%83%E3%81%AE%E7%90%86%E8%AB%96
*3:心の理論のみならず言語能力と密接な関係があるとの指摘もある。